【先生としての失敗と、コーチとしての成功】生徒との会話から学ぶ、コーチング術
学習塾のための教育コーチング、
Edcoac(エドコアック)代表の沖津です。
僕が東京で学習塾を経営し、塾歴8年目の時の話です。
今まで浪人生の指導は何人も行っていたのですが、
この年初めて、1人の浪人生に合格をもたらすことが出来ませんでした。
そんな浪人生とのストーリーを紹介させていただきます。
目次
彼の名前は、ゆうたろう。
主人公は、ゆうたろう。
ゆうたろうは高校3年の時、
大手予備校に通いながら大学受験に挑み、盛大に失敗ました。
僕の塾に通い始めたのは
ゆうたろうが浪人生活を始めて4か月が経った頃でした。
ゆうたろうは、中受・高受・大受と全ての受験を経験してきました。
行きたくもないのにやらされた、公立中高一貫校のお試し受験
行きたい学校ではなく行ける学校を選んだ私立高校
高校1年から“良い”大学に行くことをが善だと言われ続け挑んだ最難関大学
どの受験も、成功とはいえないものばかりでした。
そこには本人の意思はほとんどなく、
ゆうたろうのお父さんの意志でここまで進んできました。
それのせいか、大学受験に対して本人の意思を見つけることが難しく、
目標はあるものの、いつまでたっても具体的にならない、
どうしてその目標を達成したいのか言語化できない状態でした。
僕は、勉強での成功体験がないゆうたろうの目標を全力でサポートし、
この分野での初めての成功体験を感じてもらいたい。
という一心で指導をし続けました。
そんなゆうたろうが、最後の受験日の前日に送ってくれたメッセージです。
2度目の失敗
浪人生活中、様々なことに耐えて、我慢して、辛抱した結果、
手に入れたものはまたしても不合格。
受験における失敗は過去にもありましたが、
同じ失敗はゆうたろうにとって初めてでした。
僕にとっても、先生としての最大の失敗だったと、
その時は感じていました。
全ての受験・合格発表が終わった日、
ゆううたろうは泣きながら僕のところへ来ました。
「どうしよう。」
僕もゆうたろうも想像していなかった全落ち。
僕は何も言ってあげることができず、
衰退しきったゆうたろうの姿を見ていることも出来ずに席を離れました。
しばらく外を向き、気持を落ち着かせて話を進めました。
「どうしたい?」
どうしたらよいのか分からないから僕のもとへ来たのに、
最悪な質問をしてしまった
と、即座に後悔しました。
「分からない。」
当たり前の答えが返ってきました。
このままででは、何の解決にもならないと思い、
翌日改めて話をすることにしました。
これからどうしていくか、何ができるか、
いくつか探してみるように言ってその日は分かれました。
先生の立場からコーチの立場へ
翌日、ゆうたろうと僕は、
お互いの気持ちが落ち着いていることを確認して話し始めました。
「昨日、色々考えていくつか選択肢探してみた。」
「どんな選択肢があった?」
「今から受験して行ける専門学校に行くのが1つ。あとは、働く。」
「他には?」
「分からなかった。」
「そっか。もう1年勉強するっていう選択肢はもうない?」
「うん。もう無理だよ・・・
2年間本気で勉強してきたつもりだし、あと1年勉強しても成功するイメージが見えないんだよね。
結局浪人1年間しても結果は現役の時と変わってないわけだし。」
「そうか、じゃあ今のところ選択肢は2つなのね。」
「うん。」
「ゆうたろうは、大学に行きたいと思うきっかけって何だったんだっけ?」
「そういうもんだと思ってたから。親も両方大卒だし、俺に対して大学には行くもんだろうみいたいな雰囲気があったから。それに、高校が特進クラスだったから、高1の時からずっと大学の話されて、いい大学に行くことが正解みたいにずっと思ってた。」
「そっかそっか、今でもいい大学に行くことがいいことに感じる?」
「うん、思うよ。だけど、それをする気力は今はない。」
「もし無条件で大学に行けるんだったら、行きたい?」
「そら行きたいよ!そのために勉強してたんだし。」
「大学の何に魅力を感じるの?」
「俺ねぇ、キャンパスライフってのをやってみたいんだと思う。高校の時はずっと勉強勉強言われてきたから、キャンパスライフに憧れてるんだ。せっかく大学行くなら、偏差値の高い大学がいいと思ってる。」
「キャンパスライフかー。いいよね。ちなみに、ゆうたろうが考える偏差値が高い大学のいいところって何?」
「偏差値高い方が、色んな人が集まってる気がする。色んな考えを持った人が来るし、色んな国から留学生も来るでしょ?それがいいところかな。あと、将来考えた時に慶応大卒とか、早稲田大卒とかあった方が説得力が増すと思う。」
「確かにね。それは魅力的だね。それって、普通に受験して入学しないと味わえないかな?社会人入試とか、通信課程とかでもありそうな気がする。キャンパスライフとはちょっと違うかもしれないけど。」
「あぁ、なるほどね。ちょっと調べてみようかな。」
「うん、調べてみな。とりあえずは、色んな選択肢を出してみようよ。そこからゆうたろうが本当にやりたいことは何かを探していこうよ!」
「そうだね。じゃあまた明日話せる?」
「もちろん。」
この時のゆうたろうは、来月の自分が何をしているか、
来週の自分が何をしているかさえ分からない状態で
必死に自分を探していたんだと思います。
この会話には、水平質問のスキル、条件を変える質問、ジョハリの窓を活用した質問、
のようなコーチングスキルが含まれています。
スキルをタップし、リンクに飛んで勉強しながら、
このストーリーを楽しんでください。
本当にやりたいことが見つかった瞬間
また数日後、ゆうたろうと今後のことについて話をした。
「大学調べてみた?」
「うん!なんかねぇ、色々あった。早稲田大学とか慶応大学とか日本大学にもあったよ。そんで、通信課程の説明会が来週にあるみたいで、それに申し込んどいた。」
「おーー!行動が早いね!ちょっと見せて。」
「通信課程だとサークルとかどうなんだろう。」
「やっぱり気になる?」
「うん。サークル。。うん。」
「説明会で聞いてみなよ。」
「そうだよね。」
「ゆうたろうはさ、もし今、何の縛りもないとしたら、これから何がしたい?」
「何の縛りもないとしたらってどういうこと?」
「なんか話をしてると、ゆうたろうはまだ『大学に行かなきゃ悪』みたいな考えが残ってる気がするんだよね。だから、大学なんか行かなくてもいい、お金は無限にある状態。誰にも文句を言われないし、時間も無限にある。そうなったら、ゆうたろうは何がしたい?」
「・・・実はさ、俺。留学してみたいんだよね。」
「留学?」
「うん、留学。でも留学ってお金かかるし、今の自分に留学できるのかなっていう不安がすごいある。」
「そうなんだ、留学したいと思ってるんだ。身近に留学してる人はいるの?」
「いるよ。」
「その人のことどう思う?」
「すごいなって思う。俺にはできなかったことだからさ。でも今、留学したいって言ってみて、その人が少し近くに感じた。」
「留学。新しい選択肢だね。1番したかったことって留学なんじゃない?何の縛りもない状態を想像したときに出てきたのが留学ってことは。」
「うん、きっとそうなんだと思う。だけど、今まで大学に行くことしか頭になかったし、留学したいなんか言ったら、周りになんて思われるか想像するのが怖かったのかも。」
「なんか、今のゆうたろう、スッキリした表情に見える。つい数日前まで元気なかったのがウソみたい。」
「ねっ。自分でも感じる。」
「とりあえず、大学の通信課程はそのまま調べることは進めておいて、留学についても調べていこうか。」
「そうだね。また調べてみる。」
「じゃあ、また明日話そうか。」
「うん、お願い!」
ここの会話には、リフレイン、フィードバックするスキル、
さきほども出てきた視点を変えるスキルが含まれています。
視点を変える質問をすることで、
ゆうたろうが本当にやりたかったことが出てきました。
これは、ゆうたろうがこういう状況だから出てきた訳ではなく、
他の人でも効果的な質問です。
初めて父親に認めてもらえた夜
「おはよー」
「おはよー!留学についてみてみたよ!結構色んな国のあるっぽい。親にも留学のこと言ってみたんだけど、行きたいならいいよって言ってくれた。」
「おっ、良かったじゃん!」
「俺さぁ、父親に認められたことが初めてだったんだよね。今まで、中学受験することも父親が決めたし、高校も父親が決めたようなもんだし、高校受験の時の塾も父親が探してきたし。だからなんか、初めて自分を認めてもらえた気がしてすっごく嬉しかった。」
「そうだったんだ。よかったね。本当に。」
「うん、ありがとう。」
「今、留学することに対して正直どう思ってる?」
「うーん・・・悩んでる。」
「なにで悩んでるの?」
「留学したい気持ちは100%なんだけど、不安も100%あって、結局行きたい度は50%みたいな。」
「なるほどね。今は不安もすごく大きいんだ。何が一番不安に感じてるの?」
「やっぱり、英語が全くしゃべれない状態で行って問題ないのかってことと、親元を離れたことがないから、それに対する漠然とした不安。」
「そっかそっか、英語のことと生活のことで不安に思ってるんだ。どっちの方が不安要素は大きいの?」
「今は生活面かな。」
「生活面の不安が解消されたら、留学に行きたい度は何%になる?」
「もう90%にはなるね。」
「おーー!めっちゃ上がるね!そしたらさ、留学してた人に、留学してどうだったかとか、どういう生活してたかとか聞いてみようか。今度紹介するよ。」
「本当!?ありがとう!」
留学への魅力度がどんどん上がっていくゆうたろう。
何かを実現しようと思うときはまず、
実現したい目標に対する魅力を最大限まで高めることから始めます。
目標があるのに、行動できないことがある場合は、
その目標に対してあまり魅力を感じられていないことが多いです。
まずは、目標に対して具体的にイメージを作り、
魅力度をどんどん上げていきましょう。
やりたい度が100%になった時、人は成功する
留学していた僕の友人に留学の話を聞きに行き、
ゆうたろうの不安はかなりなくなったようでした。
「ちょっと確認したいんだけど、最初に今後のこと聞いたときに、専門と就職の2つしか選択肢がなかったじゃん。で、今は大学の通信と留学っていう選択肢が増えて4つになったじゃん。
最終的にどれか1つの選択肢を選ぶにあたって、選択肢が多い中から選ぶのと、厳選した選択肢の中から選ぶのだとどっちがやりやすい?」
「絶対に少ない方が選びやすい。」
「分かった。そしたら、4つの選択肢を2つに絞ろうか。」
「そうなったら、留学か通信かな。」
「留学と通信ね!じゃあ、今後は専門と就職の話は、なしね。でも、もしその2つに魅力を感じ始めたら気にせずに教えて。」
「分かった。」
「今は、留学と通信だと、進みたい度は何対何?」
「6対4かな。」
「留学の方が少し勝ってるんだね。」
「うん、この前話聞いて不安がかなり減ったと思う。でも、まだどこの国がいいとか、どんな準備が必要だとかが全く分かってないから6くらいになってるかな。通信は、だいたい概要が分かってきたし、不安要素は全くない。」
「そっか、分かった。ゆうたろうは、留学した後何がしたいの?」
「うーん、それが決まってないんだよね。海外のカレッジに入った後に、海外の大学に編入することも出来るし、日本の大学に編入することもできるし。今は、日本の大学に編入したいと思ってる。」
「日本に戻ってきたいんだ。」
「うん、きっとまだ、キャンパスライフへの憧れが捨てきれてないんだと思う。」
「なるほどね。最近のゆうたろう、自分で自分のことが分かるようになってきたね。」
「確かに(笑)。考えることが増えたからかな。」
「そうかもね、いいことだよ!まぁ、今は留学したあとに日本に戻ってきたいと思ってるかもしれないけど、留学してみて、海外がすごく気に入って海外の大学に行くかもしれないよね。」
「確かにねー。そうなったらそうなっただね。」
「そうだよね。今の気持ちは忘れないようにね。でも、その気持ちはいつでも変えていいってことを覚えておいて。」
「分かった。」
本当にやりたいことに対しても、
必ずと言っていいほどボトルネックは存在します。
ボトルネックとなっているものを見つけ、
そのネックを外してあげるサポートも大事になります。
ゆうたろうの場合は、留学に行きたい気持ちは十分にあるけれど
留学する不安がまだありました。これがボトルネックとなっていました。
この不安をそのままにしておくと、留学に行かない理由となってしまい、
結局やらずに終わってしまうことになっていたかもしれません。
そしてゆうたろうは5月に日本を飛び立ち、カナダのバンクーバーへ向かいました。
1年半後。
カナダでたくさんの経験を積んで、日本に帰ってきました。
ゆうたろうの新しい目標
ゆうたろうは、「自分のチーズケーキカフェを開く」
という目標を持って日本に帰ってきました。
2年前のゆうたろうからは想像つかない目標でした。
きっと、昔のゆうたろうのままだったら、
両親に反対されているかもしれません。
2019年12月に帰国したゆうたろうは、
帰国したその日に三軒茶屋のチーズケーキカフェでアルバイトの面接を受けました。
自分のカフェをオープンさせたい。
2020年のうちにはポップアップを開きたい。
三軒茶屋のカフェのオーナーにそう伝え、
修行するつもりでアルバイトを始めました。
そんなこんなで2020年7月、
ゆうたろうは渋谷センター街でチーズケーキカフェをオープンすることになります。
こんなにも早く達成できるとは、
正直僕もゆうたろうも思っていませんでした。
2020年7月22日(水)~26日(日)
10時から20時までのオープンです。
※初日は11時~20時、最終日は10時~19時までとなります。
詳細はこちら→【21歳の挑戦】渋谷センター街にカフェオープン
達成のためにやったことは、
チーズケーキカフェで修業をする、
たくさんの社会人に会って話を聞いたり自分の目標を語る、
そして、「2020年に達成したいこと カフェを開く」と紙に書いたことです。
目標を人に伝えること、紙の書くことが、
達成までの時間を短縮させてくれたみたいです。
追伸
この記事を書くのに数日かかったのですが、
この間にゆうたろうから良い知らせが届きました。
今年の秋に、2回のポップアップ開催が決定したそうです。
次回は下北沢、次々回は再度渋谷センター街。
今後の彼の成長が楽しみです。